第四版までの経緯

兼松房治郎が大正2年2月に永眠した翌年に本書は出版された。
本書の出版経緯は下記のとおりである。
出版者 本のタイトル 印刷会社
大正3年9月 初版出版 西川文太郎 兼松濠州翁 神戸新聞印刷部
大正3年12月 第二版出版 西川文太郎 兼松濠州翁 神戸新聞印刷部
昭和15年3月 第三版出版 田中守一 兼松濠州翁 田中印刷出版
昭和45年1月 第四版出版 妹尾一巳 兼松房治郎と
開拓者精神
ミイレ印刷
ここにWebに掲示したのは、第五版ということができるかもしれない。

第四版まで、初版で作った活字紙型をそのまま使っている。これは、右のような表示形 式である。旧漢字、旧かな使い、ふりかな(ルビ)付きである。
著者である西川文太郎氏は、大正初期には、神戸新聞社に勤務していたらしい。
第一版は、当初、兼松家近親者、兼松商店関係者、兼松房治郎の友人のみに、配った。 今でいう、自家出版と思われる。
その反響が多く、多くの人から翁の感想(追悼の記)が送られてきた。 松方正義侯爵と渋沢栄一子爵から、題字を賜わったりした。また、増刷の要望があり、 有料での第二版出版を3ヶ月後に実行した。 但し、その本の価格は、神戸新聞印刷部実費相当のみとしている。
(第二版、第三版と第四版には、松方正義侯爵と渋沢栄一子爵の題字が折込ページに入って いる。お二人とも雄渾なる手蹟である。また28名の追憶の記も巻末に入れている)

第三版は、どのような理由で出版されたか、掲者には、わからない。
価格は、特別価格70銭と奥付に書いてある。
奥付に、著者、西川文太郎の住所を記載していることから、氏は、初版出版から26年経った、この時点 (昭和15年)でも、ご存命だったと思われる。

西川文太郎氏は、兼松商店に勤務したことがなかった。 ただし、兼松房治郎の大阪毎日新聞社を経営していた時代の章で、「新聞紙上に物価表を詳載するにいたりしは、 翁の創意なりと記憶す」と、自分の記憶から書いているので、このときは、兼松房治郎の下で働いていたと思われる。
さらに、兼松房治郞が主宰した貿易研究会の一員として、シドニー港を出張調査した。
この時のシドニー出張には、兼松房治郎に同行した。(兼松房治郎の最後の渡濠)その旅行中に、思い出話を聞くことが多く、 これを基に、この伝記を書いたと思われる。
兼松房治郞の永眠後、その足跡を残すべしという使命感から、第一版を自家出版したと想像できる。 この時、神戸新聞社に勤務していた。(西川文太郎氏が神戸新聞の記者であったことは、兼松60年史に、前田卯之助氏が 記している。) (但し、神戸新聞が保存している一番古い社員名簿は、大正15年作成のもので、これには載っていないとのこと)

昭和24年に発行された兼松60年史では、この西川文太郎氏の文章を兼松房治郎の唯一且つ正統の伝記と記してある。

第四版の発行者の、妹尾一巳氏は、戦前から兼松株式会社で勤務し、役員に列せられてから 退職された。第四版を発行された時期(昭和45年)には、兼松事務機株式会社に勤務していた。 第四版の発行会社は、兼松事務機株式会社としている。


妹尾一巳氏は、 第四版の「あとがき」に、子供の眼を通した兼松房治郎の最後の時期を愛惜の念をもって書いている。 また、父上が明治時代に兼松商店に勤務し、自宅が兼松房治郎の屋敷の近くであったことも書いている。 従って、兼松房治郎の足跡を詳しく知ることができる立場にいたと思われる。 第四版では、妹尾一巳氏が年譜を作成して追加している。
その内容は、西川文太郎氏の本文と、 年月が若干あわないところが数ヶ所あるが、掲者は、妹尾一巳氏の年譜の方が正しいと、思っている。


本書を再掲する意義

妹尾一巳氏は、第四版を出版にあたり、その前書きに、下記のように書いている
ここに紹介するのは、私共の事業の母体を創設した兼松房治郎氏の伝記である。氏は 十余才の時から、時代の激変期に処して、人生のあらゆる試行錯誤を繰り返しながらも、 少しもこれに挫けることなく、次々に未知の仕事、未知の世界に挑戦し続け、苦闘の末 、ついに濠州との貿易に成功した近代日本パイオニアーの一人である。
私は、この伝記を五十数年前に初めて読んで大変感動した。その後も何らかの試行錯誤の あと、この古い本を取り出しては何回となく、読み返し、自らを励ましたことである。
この伝記を、私は今もなお座右の書としているが、若い世代の方々にも読んで頂ければ、今日まで 脈々と引き継がれて来た兼松房治郎氏の闘志、決断力、先駆者精神、開拓者精神などを 学びとって頂けるのではないかと考え、旧版の発行所たる神戸新聞社の御快諾を得て、 再販を試みた次第である。
なお、旧版の題名は、「兼松濠州翁」となっているが、再販に際し、特に氏の開拓者精神を 強調するため、「兼松房治郎と開拓者精神」と改めた。また、読者の便宜を考えて、巻末に 氏の年譜を付け加えることとした。
古い文章で読みにくいかも知れないが、読者各位の兼松イズムの体得の参考になれば幸甚である。




妹尾氏は、この文で、再版と書いているが、正確には第四版である。 戦後になって、再度、出版したという意味で、再版と書いているのかもしれない。
この妹尾一巳氏の文章(前書き)は、妹尾一巳氏のご子息の快諾を得て公開しました。